2022年4月6日水曜日

映画『パワー・オブ・ザ・ドック』(2021年)

2022年3月、キネマ旬報シアターにて『パワー・オブ・ザ・ドック』を初観覧。ドラマ映画。原作は1967年に発表されたトーマス・サヴェージの同名小説。舞台は1920年代後半の米国モンタナ州。監督はジェーン・カンピオン。ベネディクト・カンバーバッチ主演。

LGBTの方々が不用意に自身の秘密を明かせない、まだ保守的な時代を生きた2人の男の物語。

『ジョジョ・ラビット』や『ラストナイト・イン・ソーホー』でその美しさに見惚れてしまったトーマシン・マッケンジー出演と知り、また、『スパイダーマン』のメリー・ジェーン役でお馴染みだったキルティン・ダンストの現在も見たくなり観覧に臨んだが、トーマシンに関しては、出演場面が短かった『オールド』よりもさらに登場時間が短かったため、がっかりした。ダンストは、義理の兄からの精神的な嫌がらせで追いつめられる人妻役。しかし、ベネディクト・カンバーバッチの存在感が圧倒的だったので、途中から、その2人の事はどうでもよくなってしまった。カンバーバッチの演技は本当に素晴らしかった。一瞬たりとも目が離せなかった。納得のアカデミー賞主演男優賞ノミネート。オスカーは『ドリームプラン』主演のウィル・スミスが獲得したが、私は、カンバーバッチの演技の方が好きだった。また、カンバーバッチが演じたマッチョな男の描写が極めて繊細だったのは、本作の監督が女性だったからだろう。女目線で見る男の姿には、男が逆に気づかされる点が多い。

それぞれゲイとサイコパスである2人が引き起こした事件を観ながら、勇気ある方々が声を上げ始めたおかげで昔よりも少しはマシになったこの日本ですらあの2人が起こしたような悲劇が今もどこかで起きている、と思って憂鬱になった。

LGBTQの問題は、社会全体が変わらないと解決しない。本来の自分を出せないまま抑圧されて生きている人々が自分をさらけ出して伸び伸びと生きられる事はその社会にとっても有益なはずだが、そんな事を絶対に認めたくない、自身の古い固定観念を変えられない人間はまだまだ大勢いる。

時代は簡単には変わらないだろう。それでも、このような映画は、微力だが、私たちの社会にとって有益だ。

2022年4月1日金曜日

映画『ドリームプラン』(2021年)

ドラマ映画。実話。ウィル・スミス主演。

世界的に有名なプロテニス・プレイヤーのウィリアムズ姉妹を育て上げた彼女たちの父親リチャード・ウィリアムズのお話。

ウィル・スミスの自分の信念を曲げない頑固親父役に魅せられた。陽気でハンサムなイメージの彼が、見た目が残念な中年男性を演じていた事に少し驚いたが、彼の持ち味でもある陽気で爽やかなイメージを抑えたその演技は素晴らしかった。

彼の作品で一番好きなのはマイケル・マン監督作の『ALI アリ』。その役柄でアカデミー賞主演男優賞にもノミネートされていた。そして、2022年、本作で主演男優としてオスカーを初受賞。

その授賞式で、長編ドキュメンタリー映画賞のプレゼンターを任されたクリス・ロックがスピーチ中にスミスの妻の容姿を揶揄した。最初は笑っていたスミスだったが、突然、立ち上がって壇上に歩み寄りロックを平手打ち。席に戻ったスミスがロックに向かって大声で「お前のクソッタレな口から俺の妻の名前を出すな!」と叫ぶと、ロックは「もう言わないよ」とマイクを使って返答。コメディアンとしてきわどいスピーチを期待されていたロックは、同じアフリカ系のスミスなら遺憾の意を後で示すくらいで済ませてくれるだろうと計算していたのだろうし、スミスがあそこまで怒りを露わにするとは思っていなかっただろう。

なぜ、スミスがあの晴れの舞台であんな事をしてしまったのか。妻への強い愛か、何もしなかったら後で妻に怒られるのが怖かったからか、はたまた、あれは、アメリカでまことしやかにささやかれている、茶番劇だったのか。写真ではロックの顔が平手打ちされたかのように見えるが、動画でよく確認すると、スミスはロックの左胸を平手打ちしている。もし、スミスが拳でロックの顔を殴っていたらやり過ぎだったと思うが、胸をはたいただけなので、個人的には、あれが妻への強い愛から生じたのならば、許されない行動ではないと思うし、また、その男らしさで彼を見直した。暴力はいけないとよく言われるが、こっちの怒りの度合いが分からない相手にはある程度の行動は仕方がない。

その後、彼自身の主演男優賞受賞のスピーチで「デンゼル・ワシントンが『最高の瞬間の時こそ気をつけろ。悪魔が忍び寄るのはそんな時だ』と先ほど話してくれた」と言っていた。アフリカ系の方々は、ラテン系の方々同様、軽くて陽気過ぎる気質の方が多いので、内気な私は劣等感を覚えるため、大ファンのアフリカ系俳優は少ない。ウィル・スミスも、本作の演技や今回の立ち居振る舞いで好感を持ったが、それまではあまり好きな俳優さんではなかった。しかし、人格者というイメージもあるデンゼル・ワシントンは好きだ。そのエピソードを知った時はさすがデンゼルと思った。自分にもそんな瞬間が来たら気を付けよう。因みに、スミスのオスカーはあの平手打ちではく奪される可能性があるらしい。世知辛い世の中だ。女性が同じ事をしても、そんな展開にはならないのでは。

観覧後、気になって主人公のリチャード・ウィリアムズさんについて調べてみたら、映画ではかなり美化されているんだろうな、と感じる人生を歩まれていた。また、ウィリアムズ姉妹はその身体能力と母のオラシーンの存在だけでもスーパースターになれたかもな、でも、当時は今以上に男社会だっただろうからリチャードの存在はやはり必要だっただろうな、などと考えさせられた。ま、ここで想像や仮定の話をしても仕方がない。映画に演出は付き物だし。

淡々と物語が進む展開。劇的な場面は少な目。じんわりと感動した。印象的だったのは、リチャードが『シンデレラ』を娘たちに観せて謙虚さの重要性を説く場面。期待していたほど人種差別問題に触れていなかったので若干拍子抜けもしたが、良いドラマ映画であることは確かだ。

2022年3月30日水曜日

映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021年)

2022年1月、初観覧。スーパーヒーロー映画。トム・ホランド主演の『スパイダーマン』の3作目。

1作目の『ホームカミング』をTV画面で観た時にトビー・マグワイアの『スパイダーマン』シリーズほどには面白く感じなかったので、本作の映画館での観覧は見送ろうと思っていたが、公開後に絶賛していた方々が大勢いらっしゃったので観る気になった。そして、噂通り、最高の作品だった。

物語は前作『ファー・フロム・ホーム』の直後から始まる。スパイダーマンであることを世間にばらされた高校生ピーター・パーカーの青春とヒーローとして彼の仲間たちと共に悪者たちと闘う姿が描かれている。

前作を観ていなかったので、よく分からなかった点があったが、それほど複雑でもなかったため、冒頭から楽しめた。ミスター・ストレンジの事も知らなかったので、彼を演じたベネディクト・カンバーバッチが登場した時は、その出で立ちが派手過ぎて、また、2021年10月に観覧した『クーリエ:最高機密の運び屋』での一般市民の役柄と違い過ぎて笑ってしまった。出落ちかと思っていたが終盤で重要な役割も果たしていた彼。演技はさすがだった。観賞後、他のMCU作品にも出ているキャラクターだと知ったが、今のところ、その役にそこまで興味は湧いていない。彼の演技は『パワー・オブ・ザ・ドック』のようなドラマ映画で観たい。

終盤で、ハッピーの存在感だけが薄かったなと思い返していたら、最後に彼を演じていたジョン・ファブローが渋い演技を決めていた。主要な登場人物のほとんどに見せ場がある、アクションだけではない、良質なドラマ映画だ。

ミスター・ストレンジの出で立ちと同様に笑ってしまったのはマルチバースの存在。観覧後、MCUは無限にこのシリーズの作品を生み出す術を既に手に入れていたんだなと感心すると同時に、がめつい商売根性だ、と笑ってしまった。

この物語のテーマは、トビー・マグワイアの『スパイダーマン』でベンおじさんが、そして、本作でメイおばさんがピーターに諭すように言っていた「大いなる力には大いなる責任が伴う」。私にはそんな大いなる力は無い。凡人でよかった。

特に魅せられたのは、ピーター・パーカーとスパイダーマンを演じた、憂いが滲んだ優し気な、そして、少年っぽさが残っている純粋そうなトム・ホランドの表情。大人気であることに納得。

観賞中に悔んだのは、前作だけでなく、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズや、トム・ホランドが演じるスパイダーマンが出ているMCU作品をほとんど観ていなかった事。観覧後、一通り足早にそれらを観て、翌月、IMAX劇場で本作を再観覧。初観賞時以上に感動した。特に異世界から現れた盟友たちとの会話はずっと聞いていたかったし、最後の別れが切なかった。

2022年3月27日日曜日

映画『コーダ あいのうた』(2021年)

2022年2月に初観覧。青春映画。2014年公開のフランス映画『エール』のリメイク。

ろう者の家庭で生まれ育った末娘で健常者のルビーの青春。

感涙した。近年では、『ボヘミアン・ラプソディ』、『グレイテスト・ショーマン』、および、『カセットテープ・ダイアリーズ』でもしたが、それ以来だった。ルビーを演じたエミリア・ジョーンズの歌唱、特に手話を交えたそれには本当に感動した。

登場人物で身体障碍者が出てくるとなると、偽善っぽい物語になっているのではという懸念があって毎回観るのに二の足を踏むが、本作は日ごろから意見を参考にしている様々な方が絶賛していたので、大きなスクリーンで観るべき作品だと感じて映画館に足を運んだ。

観賞前は、エル・ファニング主演の『ティーン・スピリット』のような展開を想像していたが、より現実的な物語だった。そして、正直、終盤前までの展開は予想を超える事はなかった。なんであんなに称賛されていたのかな、期待外れだったな、と思い始めた時、ルビーの合唱団の発表会が始まって私の好きなデヴィット・ボウイの「スターマン」を彼女たちが歌い出した。名曲は時を超えるなあ、と呑気に考えながら彼女たちが楽しそうに歌う姿と彼女を見つめる父親を眺めていた時、突然、涙がこぼれた。その瞬間、そんな自分に戸惑ったが、その後の怒涛の展開で涙が止まらなくなった。心が洗われた。

「スターマン」以外では、ザ・クラッシュの「アイ・フォウト・ザ・ロウ」が流れ出した時に楽しくなった。セックス・ピストルズは大好きだが、ザ・クラッシュやグリーン・デイはあまり好きにはなれなかったので、私はパンクロック・ファンではないと思っていたが、不意に耳にしたその曲はカッコよかった。好きになるきっかけなんてそんなものなんだろうな。

主演のエミリア・ジョーンズはそんなに綺麗だとは思わなかったが、とても魅力的だった。特に、彼女が演じたルビーが想いを寄せる男の子に対する態度は、本当にいじらしくて可愛らしかった。

本作は、2022年のアカデミー賞作品賞にノミネートされているらしい。本作か『パワー・オブ・ザ・ドック』が受賞してくれたら嬉しいな。

2022年3月18日金曜日

映画『ゴーストバスターズ/アフターライフ』(2021年)

2022年2月に初観覧。コメディ・アクション映画。『ゴーストバスターズ』シリーズの4作目。2016年に公開された3作目のリブート版ではなく1989年公開の2作目『ゴーストバスターズ2』の続編。

1作目はもう何度も観ている名作。私の好きなメリッサ・マッカーシーが出ているので、そして、1作目は特殊効果の映像が少し古く感じるので、一番好きなのは3作目だった。それでも、一番見てて楽しいのは1作目のビル・マーレイの演技だ。本作観賞前、2作目はヒット作の続編にありがちな駄作だと決めつけていて未観だった。観賞中、その事を後悔した。

マッケナ・グレイス主演。

1980年代のニューヨークで活躍したゴーストバスターズを祖父に持つ孫たちとその友人たちで結成された新ゴーストバスターズが、オクラホマ州の田舎町でゴーストたちと戦うお話。

主人公は、故ハロルド・ライミスが演じていた旧ゴーストバスターズの一員スペングラー教授の孫娘フィービー。最初は彼女を男の子だと思っていたが、自分の祖父の真実を知るにつれて次第に生き生きし出して可愛らしくなっていく様を見ながら、女の子だと気づいた。マッケナ・グレイスがそんな彼女を可愛らしくも凛々しく演じていた。

そして、フィービーの兄トレヴァーを演じたのは、『IT/イット "それ"が見えたら、終わり。』でおしゃべりな少年を演じていたフィン・ウルフハード。ティモシー・シャラメを連想する風貌。今時の美男子だ。

その兄妹とそのそれぞれの親友たちで4人組の新ゴーストバスターズを結成。フィービーの親友はアジア系の愛らしい少年ポッド・キャスト。トレヴァーの親友は彼が想いを寄せるアフリカ系の若い美女。セレステ・オコナーが演じていた。

トム・ホランド主演の『スパイダーマン』シリーズ同様、ポリティカル・コレクトの意識の高さを感じた。もちろん、二人ともその兄妹と同じくらい魅力的だった。

思わず笑ってしまったのは、ゴーストの事を何も知らない警察に捕まって留置場に入れられたフィービーが警官に電話を借りたいと言って、その警官から、誰にかけるんだ、と尋ねられた彼女が電話をかけた相手が、ダン・エイクロイド演じる旧ゴーストバスターズの一員スタンツ教授だった時。ワクワクが止まらなかった。若いゴーストバスターズを助けるべく現れた旧ゴーストバスターズが、年齢を考えれば仕方ないが、若干老いぼれていたのも可笑しかった。

監督はジェイソン・ライトマン。『ゴーストバスターズ』シリーズの第1作と第2作を監督したアイヴァン・ライトマンの息子さんだ。そのアイヴァンさんは2022年2月12日に永眠。その悲しいニュースを聞いたのが観覧直後だったので感慨深くなった。フィービー、彼女の母親、そして、その父親の3代にわたるスペングラー家の物語がしっかり描かれていたのも、ジェイソンが父の助言をしっかり聞いていたからに違いない。

人間ドラマだけでなく、映画館で初めて観たシリーズ作だったせいか、その壮大なCGIにも感動した。文句無しのシリーズ最高作だ。

2022年3月15日火曜日

ハウス・オブ・グッチ

2022年2月、『ハウス・オブ・グッチ』を初観覧。2020年公開の実話を基にしたドラマ映画。監督はリドリー・スコットで俳優陣も豪華だ。

高級ブランドで有名なグッチ一族の、1970年代後半以降の華麗と言うよりも俗な人間ドラマが描かれている。

グッチ一族の後継者の一人、マウリツィオ・グッチと若いイタリア娘パトリツィアとの愛憎物語とも言える本作。

パトリツィアの積極的なアプローチを受けて結婚までしてしまった世間知らずで家業にも興味の無い御曹司マウリツィオは、婚姻後も野心家のパトリツィアに従順であったが、次第に彼女が疎ましくなり、男の意地も手伝って言いなりになるのを止める。

悩める謙虚な若者から妻のおかげである程度立派な男になれたにもかかわらず、そのまま思い上がってしまったマウリツィオをアダム・ドライバーが繊細に演じ切っている。

そして、パトリツィア役はレディ・ガガ。これまでに彼女が歌唱していた姿を度々目にしていたが、思っていたよりも小柄だったのに少し驚いた。しかし、彼女の気の強そうな顔つきはパトリツィア役にはうってつけに感じた。演技は、本業が歌手の割には良かったが、それほど上手いとは感じなかったものの、その情熱的な表情やふるまいは観応えがあった。

アル・パチーノも出演。40代と50代の彼は大好きだが、数年前に観た『アイリッシュマン』の3回目の観覧時に老いが気になって若干失望してしまった。本作では、あまり期待せずにいたのが幸いしたのか、年相応の爺様を魅力たっぷりに演じていた。まだまだ枯れ切ってほしくない俳優さんだ。

ジェレミー・アイアンズが演じた、マウリツィオの父ロドルフォ・グッチを見ながら、『フォードvsフェラーリ』に出ていたフェラーリの会長を思い出した。アイアンズは英国人らしいが、それでも、彼が演じたイタリア人の爺様のダンディな雰囲気には魅せられた。

監督のリドリー・スコットの前作『最後の決闘裁判』は、良作だとは思うが、心にはあまり響かなかった。本作でも響かなかったが、人間の愚かさが描かれていてじんわり沁みた。少なくとも、前作よりは好きだ。

「グッチ」というブランド名に翻弄された、本作における実在した方々のドラマは、正直、感動的ではなかった。むしろ、普通の人々に思えた。財を成しても身の程をわきまえていないと人はすぐに転落する。結局、人を狂わせるのは大金だ。コンスタン・ウー主演の『クレイジー・リッチ』を観た時にも思ったが、本当に幸せなのは小さな夢を持った謙虚な小金持ちなんだろうな。


2022年3月4日金曜日

007/慰めの報酬

2020年10月、『007/慰めの報酬』をTV画面にて初観賞。その後も時折観ている2008年公開のスパイ・アクション映画。ダニエル・クレイグが演じる007の第2作目。

物語は『007/カジノ・ロワイヤル』の続き。殺しのライセンスを得たばかりのジェームズ・ボンドが、生け捕るべき敵を次々と殺してしまうも、悪党たちとの死闘を通して工作員としての練度を高めてゆき、終盤で、前編で愛し合った女性との出来事に落とし前をつけて、スパイとして非情に徹する覚悟を新たにするお話。

冒頭のカーチェイスや海上でのボートによる逃走劇、飛行機とヘリコプターの空中戦、そして、終盤の砂漠の中に建っているホテルでの悪党たちとの死闘等、本作も本格的なアクションの連続だ。ダニエル・クレイグ演じる007が本当にカッコイイ。そして、中盤から行動を共にする、ウクライナ人俳優オルガ・キュリンコが演じたミステリアスな美女カミーユに敵と戦う時の心得を教えるボンドが紳士だった。ショーン・コネリーやロジャー・ムーアのボンドだったら絶対どこかで一夜を共にしているはずだ。

悪者たちに関しては、前作のマッツ様や次作のハビエル・バルデルと違い、それほどの華やかさや凄みは無い。悪役の一人マチュー・アマルリックは、ネット上で阿部サダヲに似ているという感想をよく目にしたが、私には手塚とおる似に見えた。いずれにしても迫力に欠けた。

『007/カジノ・ロワイヤル』と併せて観た方がより楽しめる、アクションだけでは無いスパイ・ドラマ映画の良作。

2022年3月2日水曜日

キングスマン:ファースト・エージェント

2022年1月、『キングスマン:ファースト・エージェント』を観覧。2021年公開のスパイ・アクション映画。主演はレイフ・ファインズ。タロン・エガートンとコリン・ファース主演の『キングスマン』の前日譚であり、『キングスマン』シリーズの第3作。

レイフ・ファインズが演じる、従軍経験を持つ英国の名門貴族オーランド・オックスフォード公が、第一次世界大戦下の世界の混乱を収めるべく独自に諜報活動を行い、その後、国家に属さない民間スパイ機関「キングスマン」を発足するお話。

『シンドラーのリスト』の戦争で少しおかしくなったナチ将校、『レッド・ドラゴン』の殺人鬼、そして、『ハリー・ポッター』シリーズの恐ろしい魔法使いといった悪役から、『メイド・イン・マンハッタン』の政治家や『ナイロビの蜂』の外交官といった紳士役まで様々な役柄を印象深くこなしているレイフ・ファインズ。割と好きな俳優さんだ。ここ数年は『007』シリーズや『オフィシャル・シークレット』で脇役だが存在感のある紳士役を好演していたので、本作で体を張ったアクションを披露している彼には少し驚いたし、顔が似ていてアクションもこなすリーアム・ニーソンやハリソン・フォードに対抗心を燃やして暴れまわっているようにも見えた。年齢を考えたら、無難に紳士役を演じていればいいのにとも思ったが、体を動かしたいお方なんだろうな。本作では、使命感を持って世界平和のために精力的に活動するオーランド・オックスフォード公役の演技だけでなくそのアクションも素晴らしかった。

残念だったのは、『キングスマン』シリーズの前2作と比べて、若い俳優の活躍が少ない事。オックスフォード公の息子役のハリス・ディキンソンや執事役のジェマ・アタートンの出番をもう少し増やしてほしかった。だからと言って、レイフ・ファインズがつまらなかったわけではない。私が無いものねだりをしているだけなのかもしれないし、それだけ、前2作のタロン・エガートンとコリン・ファースのコンビが素晴らしかった。

第一次世界大戦をコミカルに描いていて、また、名前くらいは知っていたラス・プーチンに興味を湧かせてくれた本作。続編が製作されるとしたら、第二次世界大戦の裏側がどう描かれるのか興味はある。

2022年2月24日木曜日

クライ・マッチョ

2022年1月、『クライ・マッチョ』を初観覧。2021年公開のドラマ映画。クリント・イーストウッド主演・監督作。

イーストウッド演じる老齢の男が、古い友人から、メキシコにいる彼の息子をアメリカに連れ帰ってほしいと頼まれ、メキシコに単身乗り込んでその少年を探し出し、彼と二人でアメリカへの出国を目指してメキシコを旅するお話。

2018年公開作の『運び屋』を観覧した時は、主演していたイーストウッドがすっかり衰えた爺様になっていたのに驚いた。だから、これが彼の最後の主演作になるんだろうな、と思いながら観ていたし、強い男を演じる彼が好きだったので、同年公開作の『さらば愛しきアウトロー』で俳優業を引退したロバート・レッドフォードと同様に、演じるのはその作品で最後にしてほしかった。2019年公開の『リチャード・ジュエル』では出演せず監督業に徹していて、その作品も素晴らしかったので、このまま監督業に徹していてほしいな、と思っていたが、本作で再度主演するというニュースを聞いた時は本当に驚いた。

もっと率直に言うと、主演は『グラン・トリノ』を最後にしてほしかったし、『運び屋』での彼の姿は、目はまだ死んでいなかったが、あまり見ていたいものではなかった。しかし、彼が演じる事を決意したのであれば、一ファンとしては見届けるべきだとも思い、『クライ・マッチョ』の観覧に臨んだ。

イーストウッドは、想像していたよりはお元気そうだった。さすがにもう筋骨隆々ではないが、休息が必要な時はしっかり寝るという姿や何が起こっても慌てず冷静に考えて行動する様に、腕力が無くとも心は強く持つべき、体力が落ちてもその時のベストを尽くせば活路は常に見いだせるというメッセージを感じた。そして、若い頃とは体力が格段に落ちてしまい、もうオジサンだから仕方がないと投げやりになりがちな日ごろの自分を改めようと思った。疲れた時はまず十分に睡眠を取ればいい。その時その時でやるべきことに集中して、余計な事は時間がある時に考えればいいのだ。

『グラン・トリノ』でのアジア人の子供との関係性の方が好きだが、メキシコで見つけ出して行動を共にした少年との交流もまた微笑ましかった。必要以上に、安易に子供に迎合しない姿勢も大人の正しい在り方だ。

酒場の女主人との交流では1992年公開の『マディソン郡の橋』を思い出した。あの作品では彼が土砂降りの中でずぶ濡れになったシーンが印象的だったが、本作における御大の彼女との接し方は粋だった。そして、女性を好きになっても、媚びは売るな、誠意だけはしっかり示せ、と言われた気がした。

生きる伝説、クリント・イーストウッドの過去の出演作が様々な場面で頭に浮かぶ良作。また演じたい役があったなら、再度、その役を通して年相応の男の流儀を示して頂きたい。

2022年2月17日木曜日

007/カジノ・ロワイヤル

2020年10月、『007/カジノ・ロワイヤル』をTV画面にて初観賞。その後も折に触れて観ている2006年公開のスパイ・アクション映画。ダニエル・クレイグが演じるジェームズ・ボンドの第1作。『007』シリーズの21作目。

殺しのライセンスを取得したばかりのMI6のエージェント、ジェームズ・ボンドの活躍。

ダニエル・クレイグが演じる007は、堅物っぽかったティモシー・ダルトンと同様にあまり浮ついていない。手あたり次第に女と寝る大昔の007とは大違いだ。ただ、彼はダルトン以上に、そして、ショーン・コネリーやロジャー・ムーアと同じくらい男の色気を漂わせている。そして、歴代のボンド俳優の中で殺しのライセンスに一番ふさわしいのは、ダニエル・クレイグだと思う。欧米人としては中肉中背だが、顔つきや体つき、身のこなしが闘う男だ。任務遂行の為にひたすら邁進する姿にシビれる。落ち着いた雰囲気と男臭さを併せ持つクレイグが、ボンド俳優の中で一番好きだ。

悪役で、日本では「北欧の至宝」と呼ばれている、マッツ・ミケルセンが出演。初めて観た彼が出演している映画は『永遠の門 ゴッホの見た未来』。その時は、ゴッホ役のウィレム・デフォーの存在感が圧倒的だったせいか、あまり印象に残らなかった。初めて彼を認識したのは、『ファンタスティック・ビースト』シリーズを降板したジョニー・デップの代役に抜擢されたニュースを聞いた時。世の女性にマッツ様と呼ばれているのもその時知った。本作でも噂に違わぬセクシーなお方だったし、本作を観賞していなかったら『アナザーラウンド』も観ていなかっただろう。

ピアース・ブロスナンの『007』シリーズからM役で出演しているジュディ・デンチも引き続きMとして出演。さすがの存在感。11年後に主演していた『ヴィクトリア女王 最期の秘密』でも女王様をチャーミングに演じていた。映画に出演し出したのは50歳をすぎてかららしい。80歳を過ぎても変わらず素敵な俳優さんだ。