2022年4月6日水曜日

パワー・オブ・ザ・ドック

2022年3月、キネマ旬報シアターにて『パワー・オブ・ザ・ドック』を初観賞。2021年公開のドラマ映画。原作は1967年に発表されたトーマス・サヴェージの同名小説。舞台は1920年代後半の米国モンタナ州。監督はジェーン・カンピオン。ベネディクト・カンバーバッチ主演。

LGBTの方々が不用意に自身の秘密を明かせない、まだ保守的な時代を生きた二人の男の物語。

『ジョジョ・ラビット』や『ラストナイト・イン・ソーホー』でその美しさに見惚れてしまったトーマシン・マッケンジー出演と知り、また、『スパイダーマン』のメリー・ジェーン役でお馴染みだったキルティン・ダンストの現在も見たくなり観覧に臨んだが、トーマシンに関しては、出演場面が短かった『オールド』よりもさらに登場時間が短かったため、がっかりした。ダンストは、義理の兄からの精神的な嫌がらせで追いつめられる人妻を好演していた。しかし、ベネディクト・カンバーバッチの存在感が圧倒的だったので、途中から、その二人の事はどうでもよくなってしまった。カンバーバッチの演技は本当に素晴らしかった。一瞬たりとも目が離せなかった。納得のアカデミー賞主演男優賞ノミネート。オスカーは『ドリームプラン』主演のウィル・スミスが獲得したが、私は、カンバーバッチの演技の方が良かったと思う。また、カンバーバッチが演じたマッチョな男の描写が極めて繊細だったのは、本作の監督が女性だったからだろう。女目線で見る男の姿には、男が逆に気づかされる点が多い。

それぞれゲイとサイコパスである二人が引き起こした事件を観ながら、勇気ある方々が声を上げ始めたおかげで昔よりも少しはマシになったこの日本ですらこの二人が起こしたような悲劇が今もどこかで起きている、と思って憂鬱になった。LGBTQの問題は、社会全体が変わらないと解決しない。本来の自分を出せないまま抑圧されて生きている人々が自分をさらけ出して伸び伸びと生きられる事はその社会にとっても有益なはずだが、そんな事を絶対に認めたくない、自身の古い固定観念を変えられない人間はまだまだ大勢いる。時代は簡単には変わらないだろう。それでも、このような映画は、微力だが、私たちの社会にとって有益だ。

0 件のコメント:

コメントを投稿