2023年8月11日金曜日

映画『ブレイブ ワン』(2007年)

サスペンス。122分。ニール・ジョーダン監督作。ジョディ・フォスター主演。

ある夜、暴漢に襲われて婚約者を殺され自身も瀕死の重傷を負った女性が、退院後、自衛と心の平穏の為に不法な手段で銃を手に入れて、その後、あるきっかけから街の悪者たちをその銃で退治し始めるお話。

愛する人を殺された方に復讐するなと誰が言えるのだろう。それがその方にとって自分の命よりも大事な人だったらなおさらだ。被害者の感情は刑の重さでは抑えられない。観賞後、そんな事を思った。その女性エリカを演じたジョディ・フォスターに魅せられた。小柄で短髪な彼女が銃を構える姿が愛しくて凛々しかった。それに、公開当時は40代半ばのはずだが、まだ30代に見えて美しくもあった。そして、アフリカ系アメリカ人刑事との関係性にも胸が締め付けられた。

エリカの魂に焦点を当てた、正義とは何かを考えさせられた良作。

数年前に初観賞したブルース・ウィリス主演の『デス・ウィッシュ』があまり好きになれなかったので、そのオリジナル映画でもある、まだ未観だったチャールズ・ブロンソン主演の『狼よさらば』をその数か月後に観賞。自身の不在時に家でチンピラに愛妻を殺され愛娘も暴行された男が、その後、夜の町で街のならず者を私的に処刑するお話。1974年作なので時代を感じるが、本作と同じくらい好きだ。

2023年8月9日水曜日

映画『怪物』(2023年)

ドラマ映画。126分。是枝裕和監督作。坂本裕二脚本。安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢出演作。カンヌ映画祭脚本賞受賞。

生徒の母親、教師、2人の生徒のそれぞれの視点で描かれたとある小学校の非日常。

それぞれにそれぞれの視点があるのは当たり前、と思いつつ、また、元子供なのになぜ大人たちは子供の心を忘れてしまうのだろう、と思いながら物語の推移を楽しんでいたが、後半に差し掛かって少年たちの本音が見え始めた時、え?そっち?これがカンヌの好み?と思ってしまった。自分が予想していなかった展開に落胆もした。そして、後半から話の原因が分かるその脚本は素晴らしいと思ったし、他人を偏見の目で見るのは止めようと改めて思ったが、そのドラマ自体はそれほど心に響かなかった。

是枝監督作はこれまでに8本観賞。面白いと感じたのは『歩いても 歩いても』と『海街diary』。カンヌ映画祭主演男優賞を受賞した『誰も知らない』やパルムドールを受賞した『万引き家族』では、アイデアは素晴らしいと思ったが、感動しなかった。こんなもんか、と思った。そして、脚本賞を受賞した本作も同様だ。どうやら、私は彼の野心的な作品はそれほど好きではないようだ。

2023年8月2日水曜日

映画『アフターサン』(2022年)

ドラマ映画。101分。2022年公開作。シャーロット・ウェルズ監督作。ポール・メスカルとフランキー・コリオのW主演。

30歳の父親と11歳の娘の避暑地における一夏の想い出。

初観賞時の前半までは、エル・ファニングが出ていた『SOMEWHERE』みたいな映画だな、と思っていたが、父親が夜の海に駆けだす場面で、これは少し違うな、と感じて襟を正した。ラストのお別れと、その光景を思い出していた、大人になった娘の姿に切なくなり、エンドロールが終わってもしばらく席を立てなかった。

その後、どうしてももう一度観たくて約10日後に再観覧。

終盤に流れ出す「クイーン」とデヴィッド・ボウイの合作曲「アンダー・プレッシャー」に合わせて楽しそうに踊る父、空港で無邪気におどけ続ける娘、そして、それを回想している20年後の娘の姿に胸が締め付けられた。再び心を持っていかれた。

観覧後、本作がシャーロット・ウェルズ監督の個人的な経験を元に製作された事を知り、深く感銘。秀作。

2023年7月31日月曜日

映画『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』(2023年)

『ワイルド・スピード』第10作。アクション映画。141分。ルイ・レテリエ監督作。ヴィン・ディーゼル主演。ミシェル・ロドリゲス、シャーリーズ・セロン共演。

観覧した前作は面白かったが、TVで放映された時はつまらなく感じたので、『ワイルド・スピード』シリーズはもう卒業かな、と思ったが、本作が公開されると、やはり、どうしても気になり、映画館に足を運んだ。そして、やはり面白かった。映画館で観る映画だ。今回は、ヴィン・ディーゼル、ミシェル・ロドリゲス、そして、敵役のジェイソン・モモアがカッコよかったが、シャーリーズ・セロンのアクションも観応えがあった。

死んだと思っていたキャラがよく再登場する作風なので、ドムの息子の母親も次作でロック様とともに再登場するのではと邪推している、お祭りのようなシリーズ。

2023年7月27日木曜日

映画『TAR/ター』(2022年)

ドラマ映画。158分。トッド・フィールド脚本・監督作。ケイト・ブランシェット主演。

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の女性初の首席指揮者であり作曲家でもある、リディア・ターの音楽家としての生き様。

クラシックに詳しくないのでよく分からない言葉が多かったが、すごく面白くて、劇場で2回観覧した。リディアを演じた大人の女性の魅力たっぷりのケイト・ブランシェットが終始画面に登場。静かな場面が多くて、主演の彼女だけでなく、その全体的な雰囲気の良さにも魅せられた。

数十人の楽団を率いる指揮者にはある程度の傲慢さは必要だ。男社会で闘っている女性だったらなおさらだ。リディアの傲慢さもまた妥当に思えたが、それがある悲劇を生む。その事件がマスメディアやネット上でセンセーショナルに扱われ、彼女はバッシングを受けて孤独になって自分を見失う。高度な社交性を持ち合わせていなかったリディアにも責任があるかもだが、私は、そんな彼女の人間臭さにも惹かれて、ネット上の言葉に過剰に反応する社会や彼女を支えるべき人たちの嫉妬や裏切りがとても醜く感じられた。そして、その後も音楽とともに生き続けた彼女の姿からは元気をもらった。

何かが憑依しているかのようなリディア・ターを真摯に演じていたケイト・ブランシェットに魅せられた。役柄に心身ともに没頭していたように感じたので、撮影後に引退をほのめかしたという話も、もうあれ以上の演技は出来ないと感じたのだろうと思えて理解できた。

ケイト・ブランシェットの、俳優として、というよりも、女性としての魅力が詰まった、素晴らしい作品。

2023年6月21日水曜日

映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』(2022年)

ドキュメンタリー映画。2022年公開。140分。ブレット・モーゲン監督作。IMAXで初観覧。キネマ旬報シアターにて再観覧。

ロック・ミュージシャン、デヴィッド・ボウイの生涯が主に彼自身の言葉と音楽で語られている。

70年代の派手なファッションに身を包んだ彼は、ゲイが精神病だと思っていた、無知だった子供の私には奇異に映っていた。しかし、彼が、当時、バイセクシャルである事を公表して社会の偏見と闘っていた事を本作で知り、彼がただの有名ロック・ミュージシャンではなく人格者だったことに感銘を受けた。

ストーンズ、ピストルズ、オアシスといったロックバンドが好きなので、実は、数年前まで、ソロ・アーティストだったデヴィッド・ボウイにはあまり関心が無かった。それでも彼のアルバム『レッツ・ダンス』と『トゥナイト』は持っていた。その中で一番好きだった曲は、先月お亡くなりになったティナ・ターナーさんとのデュエット「トゥナイト」。そして、長い間、ノリのいい「ブルー・ジーン」が彼の代表曲だと思っていた。『レッツ・ダンス』に関しては、シングルカットされた同名曲と「チャイナ・ガール」が好きではなかったので、あまり聴いていなかったが、数年前に観賞した映画『フランシス・ハ』で使われていた一曲目の「モダン・ラブ」が凄くカッコいいことに遅まきながら気づいて、『レッツ・ダンス』を軽んじていた事を後悔した。その後、映画館で観た『ジョジョ・ラビット』のエンディング曲、「ヒーローズ」の素晴らしさにも感動。その曲がベルリンの壁崩壊に一役買っていたことも後で知って、彼の他の曲も聴き始め、彼への印象が大きく変わっていた時期だったので、本作は、そんな私にはうってつけだった。

観覧中に涙したのは「ヒーローズ」のイントロが流れ出した時。彼のファンもまた皆ファッショナブルでカッコよくって、なんだかボウイの分身のように感じた。彼らの彼への崇拝ぶりは、彼の存在が彼らにとっていかに大きいのかを物語っていて、なぜ、長い間、彼の凄さに気づけなかったのかと改めて恥ずかしくなった。

また、ジョン・レノンやフレディ・マーキュリーと同じく、ボウイが日本に好感を持っていた事は、日本人として嬉しかった。

デヴィッド・ボウイの、歌手や役者といったパフォーマーとしてだけではなく、人としての魅力が詰まったドキュメンタリー映画の傑作。

2023年5月31日水曜日

映画『RUN/ラン』(2020年)

『RUN/ラン』

スリラー映画。2020年に配信にて公開。アニーシュ・チャガンティ監督作。主演はサラ・ポールソンとキーラ・アレン。

大学進学を目指している、一人っ子で生まれつき足が不自由なクロエが、それまで自分を育ててくれたシングルマザーのダイアンが自分に隠し続けてきた秘密を知って、彼女から逃れるために奮闘するお話。

冒頭から不穏な雰囲気を漂わせていたダイアン。彼女の思い詰めたような険しい表情から、私に対して超過保護だった実の母親を連想。観ながら苛々し始めた。だから、徐々にダイアンに対して不信感を抱き始めたクロエにはすぐに感情移入できた。そして、疑心暗鬼になってダイアンに隠れて色々調べ始めて恐ろしい事実を知るクロエを観ながら、世界で一番信用できると思っていた母が実はそうではないと悟った時の絶望感を思い出して胸が苦しくなり、ダイアンと決別すべく奮闘する彼女に心から同情しつつ全力で応援した。他人事ではなかった。

しかし、一般的にはそれほど珍しくも無い私の些細な過去の心の傷を遥かに凌駕するクロエの哀しい生い立ちの全貌が明らかになった時、本作がフィクションである事を思い出して、逆に少し落ち着いた。

早い段階から終盤までハラハラドキドキの連続で最後まで緊張感が漲っているスリラーの良作。

主演のお二人の演技は最初から最後まで素晴らしかった。そして、自分の少年時代の思い出とも重なったので忘れられない作品になった。


2023年4月28日金曜日

映画『バビロン』(2022年)

ドラマ映画。デイミアン・チャゼル監督作。主演はブラッド・ピットとマーゴット・ロビー。

無声映画からトーキーに変遷する映画界を生きた人々の生き様。

2023年2月に初観覧。古すぎるので無声映画は記録映画に思えてしまう。チャップリンさんのサイレント映画を何作か観た際にはあまり好きにはなれなかった。その上、映画の撮影秘話や裏話にもあまり興味が無かったので、本作の初観賞時はあまり興味が湧かなかった。

しかし、スクリーンに映し出されたアップのマーゴット・ロビーの美しさには圧倒された。そして、本作終盤の映画館内の場面で上映されていたミュージカル映画『雨に唄えば』が印象に残った。数年前に1939年公開作のミュージカル映画『オズの魔法使い』を観た時は、古い映画の割には面白い、と感じただけだったので、同じく古いそのミュージカル作品への興味も薄れていたのだが、本作観賞後、その挿入歌「雨に唄えば」が頭から離れず、数日後、どうしても観たくなったのでDVDにて『雨に唄えば』を初観賞。面白かった。そして、映画がトーキーへ変遷する際の俳優たちの悲喜こもごもも描かれていてとても興味深かったため、本作をまた観たくなり、同年4月に再観覧。

サイレント映画では大スターであったジャックとネリー。トーキーではセリフがなかなか上手く言えずに低迷するも、最期までスターであり続けた2人の生き様は決して褒められるものではなかったが、小便を漏らしながら命乞いをして何とか生き延びた男よりは粋だった。

煌びやかで貫禄のある大スターの座から哀愁を漂わせながら落ちぶれていくジャックをを演じたブラッド・ピットに魅せられる。そして、マーゴット・ロビーが、感情的な演技は得意だが、育ちがよくないせいで上品な振る舞いが苦手でトーキー映画では役を得ることが出来ない、それでも、平凡な幸せよりもスターとして生きる道を選び続けたネリーを熱演。デビュー前の乱痴気パーティでの野心家ぶり、はしゃぎぶりが妖しくて美しかった。金持ち連中とのパーティでのブチギレも痛快だ。

傑作とまでは思わないが、映画愛に満ちたなかなかの良作。

2023年4月23日日曜日

映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』(2021年)

ドキュメンタリー映画。ジュゼッペ・トルナトーレ監督作。2023年3月にシネスイッチ銀座にて初観覧。

映画音楽の巨匠、エンニオ・モリコーネの生涯が著名人のインタビューを交えて描かれている。

前半は、イタリア人である彼の生い立ちや古い映画の話だったので、睡魔との闘いだった。『続・夕陽のガンマン』の音楽に感動したというブルース・スプリングスティーンと『時計仕掛けのオレンジ』を撮影していたスタンリー・キューブリックが彼と仕事をしたがっていたことが印象的。感動して目が潤み始めたのは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』の話から。ロバート・デ・ニーロやジェームズ・ウッドといった名優の演技もそうだが、音楽もまた素晴らしい作品だ。約4時間にもかかわらず彼が作り上げた美しい曲たちのおかげで全く退屈しない。『ミッション』はシリアスな物語だったので興味は無くなっていたが、彼が音楽を担当していたと知ってまた観賞したくなった。『アンタッチャブル』は好きな作品。再観賞時は音楽にもより耳を傾けよう。そして、『ニュー・シネマ・パラダイス』。名作として誉高いが、私には、アルフレードの行為が彼のエゴにも映る。だが、そんな事がどうでもいいと思えるほど、全編に流れる旋律が美しい。『Uターン』の話では、監督のオリバー・ストーンが、『トムとジェリー』を参考にしてほしい、と彼に言ったら怒られた、と笑いながら話していた。個性が強い方々の逸話は面白い。

2006年にアカデミー名誉賞が授けられるまで、その音楽賞に5度もノミネートされたにもかかわらずオスカーは獲得できなかった彼。クエンティン・タランティーノ監督作の2015年公開映画『ヘイトフル・エイト』でついにオスカーを獲得。長年の実績を考えると遅すぎる受賞。その授与式は本当に感動的だった。偏見や妬みをはねのけ続けて掴んだ栄光の瞬間に涙が零れた。巨匠の不屈の精神を体現した生き方が素敵すぎる。

同じく映画音楽の巨匠であるジョン・ウィリアムズさんもインタビューで彼について語っていた。私が子供の頃から有名だったので、まだご存命だった事にまず驚いて、まだ全然枯れていない事にも驚いた。公開時90歳。モリコーネさんは2020年に91歳で他界されているが、本作でのお姿はお元気そうだった。高齢でも元気でいられる秘訣って、現役で有り続けることなんだろうな。

2023年4月7日金曜日

映画『イニシェリン島の精霊』(2022年)

悲喜劇映画。マーティン・マクドナー監督作。コリン・ファレルとブレンダン・グリーソンのW主演。ケリー・コンドン出演。2023年2月に観覧。

アイルランドの小さな孤島における、話が面白くない男とバイオリン好きな男の奇妙な友情物語。

ある日、突然、親友と思っていたコルムから絶縁宣言を受けたパードリック。理由を知りたくて執拗にコルムに話しかける彼を見ながら、分かりやすく無視しているにもかかわらず私にしつこく話しかけてきた輩たちを思い出して苛々した。我慢の限界を超えたらもう駄目なんだよ、もう話しかけるなよ、と彼に言いたくなった。彼が絶縁された理由は彼の話がつまらないから。退屈だから。妥当な理由だ。そう言われてもめげずに話しかけるパードリック。いい加減にしろよ、と言いたくなった時、コルムが理解に苦しむ愚行に出た。ホラーっぽい行動だったが、私には受け入れ難かった。作品自体がメタファーであると言うレビューを多々目にするが、そんな風に考える気は微塵にも起きない。本作よりも断然良いと感じる『シー・セッド』がノミネートされなかったアカデミー賞作品賞に本作がノミネートされていた事にも納得できなかった。オスカーまで獲得していたら、賞自体に幻滅していただろう。コリン・ファレルとブレンダン・グリーソンは演者として素晴らしかったと思う。私が好きになれないのは物語自体だ。下衆な警官、俗な神父、不気味なおば様といったその他の登場人物が私の本作に対する嫌悪感に拍車をかけていた。唯一の救いは読書家で美しい、パードリックの妹、シボーンの存在。不条理がはびこるその島の中で彼女のまともさだけが際立っていた。演じたケリー・コンドンの事をずっとレベッカ・ファーガソンだとも思っていたが、とても綺麗な役者さんだ。

世間の評価を考えると良作なのであろうが、私の好みではない。