2022年9月2日金曜日

エルヴィス

『エルヴィス』

エルヴィス・プレスリーの伝記映画。2022年公開。バズ・ラーマン監督作。オースティン・バトラーとトム・ハンクスのダブル主演。2022年7月にMovix亀有にて初観賞。

ロックの神様、エルヴィス・プレスリーの生い立ちから晩年までが、彼のマネージャー、パーカー大佐の視点で描かれている。

私の好きな洋楽はイギリスのザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズから。彼らのデビュー前からアメリカに存在していた、黒人ミュージシャンが楽曲を発表していたレコードレーベル、モータウンやエルヴィス・プレスリーの存在は何となく知っていたし、エルヴィスのデビュー当時のアメリカにおける人種差別の酷さも、映画『マルコムX』で知っていたつもりになっていた。しかし、本作で描かれていた当時のアメリカ社会の現実は私の認識を少し超えていた。特に、白人は黒人に迎合してはいけないとむきになって主張する保守的な白人たちには驚かされた。そんな彼らを無視して白人として黒人の音楽を踊りながら歌い続けるエルヴィス。そして、そんな偏見に満ちた社会で抑圧されてきたせいか、彼の鋭い足腰の動きに熱狂する若い白人女性たち。現代から見るとまるでコントだ。そんなエルヴィスにも試練が訪れる。人気テレビ番組出演時に、保守的な白人たちからひんしゅくを買わないよう燕尾服を着させられ、踊りを禁じられてしまう。自分らしさを表現できないことに苦悩するエルヴィスだったが、その後、旧友でアフリカ系ミュージシャン、B.B. キングに励まされ、あるコンサートで一大決心をし、保守的な白人のおじ様たちを激怒させる、そして、若い白人女性たちが熱狂する、本来の彼の鋭い踊りを披露。その直後、これもコントみたいだが、エルヴィスは逮捕された挙句に徴兵されてしまう。余談だが、その10数年後にザ・ローリング・ストーンズもアメリカの国民的人気番組エド・サリバンショーで「夜をぶっとばせ」を歌う時にその歌詞の "the night" をわいせつであるという理由で "some time" と歌うように強制されたが、当時のストーンズのミックとキースは、その事が話題になってレコードが売れると喜んでいたとか。ストーンズやビートルズがデビュー後に快進撃を続けられたのは、ロックンロールのパイオニアであるエルヴィスの苦悩や犠牲のおかげとも言えるだろう。まさにエルヴィスは「ロックの神様」の称号にふさわしい人物だ。

エルヴィスを、アメリカ、そして、世界のスーパースターに導いたマネージャー、パーカー大佐の功績は大きい。だが、薬漬けにしてまでエルヴィスを歌わせ続けて、自分は大好きなギャンブルに精を出していた彼は、決して善人ではない。そんな彼が、本作では興味深い人間として描かれている点は嫌いだ。また、大佐の視点ではなく、エルヴィスの父親、もしくは、エルヴィス本人の視点で物語を描いてほしかった。

終盤のエルヴィスの姿が痛々しかったので、観覧後の数日間は気分が重かった。それだけ、エルヴィスの苦悩を見事に演じ切ったオースティン・バトラーとパーカーの狡猾さを絶妙に表出したトム・ハンクスが素晴らしかったという事だろう。パーカー大佐の描かれ方には不満があるが、エルヴィス・プレスリーの伝記映画としては良作だ。

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